映画『お坊さまと鉄砲』感想:「チェーホフの銃」を鮮やかに裏切る、三宅隆太氏も絶賛の傑作コメディ

 今年最後に楽しい気分で新年を迎えようと、コメディ映画を見ようと思い視聴。他にこの作品を見ようと思った理由は、スクリプトドクター三宅隆太さんが、今年のベスト10の第5位にランクインしていたからというのもあります。シリアスなテーマを扱ってはいますが、保証します。これは間違いなくコメディ映画です。

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 舞台は2006年のブータン。国王が退位し、民主化へと舵を切ることになり模擬選挙が行われるのだが、そこで展開される群像劇が本作のキモ。

 

 まずOP、ラマ僧のラマ(ケルサン・チョジェ)が若い僧侶タシ(タンディン・ワンチュク)に模擬選挙が行われる満月までに銃を調達する様に申し伝える。ここで物語のゴールが示される。

 

 で、タシが銃を探すという話がまずひとつ。そこに銃コレクターのロン(ハリー・アインホーン)と彼をガイドするチャラい男ベンジ(タンディン・ソナム)の話が絡んでくる。

 

 模擬選挙を控え、既に近代文明の「汚染」が始まっていて、誰に投票するのかを巡ってロビイングや親族同士のいさかいやいじめが発生したりする。

 

 選挙委員でツェリン(ペマ・ザンモ・シェルパ)というキャラクターがいて、この人はいわゆる開明派で、選挙によって民主化されればみんな幸せになれると思っているが、劇中のブータン人のひとりに「いまでもじゅうぶん幸せなのに、選挙する必要ってあるの?」と言われほとんど反論できないで口ごもっているのは、ツェリンが「善意の思考停止」に陥っているのがわかる。

 

 彼女は近代文明を良くも悪くも象徴するキャラクターで、やたらに選挙の投票率にこだわる(成果主義!)んだけど、投票結果によってある意味での「教育」を受ける。

 

 銃を巡る話に戻すと、タシは無事銃を手に入れるが、それはかなりの骨董品らしくコレクターのロン(功利主義者)も探していた。ベンジが交渉して、AK472丁と引き換えならば交換するとことになるんだけど、その前にタシが売店(?)で目にした007で出てきた銃だからという軽薄さ。ここでもまたあっという間に文明による汚染が示される。

 

 そして模擬選挙の投票結果が発表されるんだけど、それはクライマックス一歩手前の演出で、結果は実際に映画を見てください。ここでひとつ観客から笑いが起こっても不思議ではない。結果というより開明派のツェリンに対する笑いといいましょうか。

 

 ラマが何故銃を求めていたのか、そしてそれをどう扱うのかが真のクライマックスなんだけど、ここで「チェーホフの銃」という創作上の原則を知っている方なら、それを逆手に取った巧妙さに舌を巻くのと同時に、ロンに下されるある種の「罰」を見て爆笑間違いないことを保証します。絶対笑えます!彼はたしかに「銃」をある意味では手に入れるんですけどね(ウププッ)。

 

 近代文明社会にどっぷりつかってそこから抜け出せない我々からすると、このブータンの人たちが送っている生活の方がマシに見えてしかたがないし、文明化なんてしたら劇中で描写される豊かな自然もほとんど全部失われてしまうので、このままでいいのではと思わざるを得ませんでしたね。