今年の6月6日から公開されたロングランヒット作となっていますね。ついに視聴しました。 任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)は、歌舞伎の名門役者花井半次郎(渡辺謙)にその才能を見いだされ引き取られる。そこで半次郎の息子俊介(横浜流星)と出会う。二人は互いに切磋琢磨しあいながら歌舞伎の世界で「国宝」を目指していくのだが…というのがあらすじ。
「ワン・バトル・アフター・アナザー」に続き、つまらなくはないんだけれど、私的にはすごく面白いとか感動したとかいう作品では無かったです。
なんか、歌舞伎の世界というものを説明するみたいな話の展開に感じました。なんか「さらばわが愛/覇王別姫(以下覇王別姫)」にインスパイアされたそうですが、申し訳無いけど主人公はそれほど追い詰められたりはしていません。
たしかに覇王別姫と同じく、主人公を幼い頃から追って行き、時代が移り変わりはする。だけど激動でも何でもない。なんせ時代が日本の戦後復興からバブル期までですからね。
なんせ「国宝」なので、喜久雄は半次郎にその才を見いだされて引き取られ、歌舞伎と言う芸能の世界で包摂される。覇王別姫においては主人公達はどこまで行っても周辺化された存在なので人生の道程は茨の道でしかない。体制が変化しても彼らの境遇が変わることは無いというか、良くはなりはしなかった。
覇王別姫と比較だけしても仕方が無いので、今作の感想を。
喜久雄は半次郎に見いだされるほどの才能を持っていて、中盤までに彼は殻を破り、その才能を開花させるのだけれど、それを見て己に絶望して半次郎はいったん下野というか、ドサ周りをすることで彼なりにこれまた殻を破り、歌舞伎の世界に戻る。
中盤で喜久雄にとっては父親代わりでもありメンターでもあった半次郎が、糖尿病で倒れてしまう。喜久雄も喜久雄でいったんはスキャンダルにまみれて下野し、ドサ周りの後俊介に助けられる。
途中まで見ると、ちょっとブラザーフッドみたいな話なのかなとは思いました。
半次郎の息子俊介だけど、彼はふたつの「血の呪い」を持っている。ひとつは半次郎の跡取りというプレッシャー。歌舞伎の世界に生まれた以上、後を継がないといけない訳だ。「血が守ってくれる」というけど、そんなことは無い様に私には見えましたね。もうひとつの血の呪いは、後半判明するんだけど、父親の半次郎が糖尿病が原因で亡くなるんだけど、彼もまた父親の遺伝で糖尿病を患い最後は両足を切断することになる。
ふたりとも、歌舞伎のもつ「美」に魅入られ、その怪物と対峙し自らが美そのものになろうとするのだけれど、最後に生き残ったのは喜久雄だった。
彼の背中には、任侠の世界にいた頃に彫った、ミミズクの入れ墨があるのだけれど、これはどちらかというと、象徴的な意味を持っていて、彼の猛禽類の様な貪欲さ、美の追求欲を表していて、人生経験もすべて舞台での美を手に入れる為の肥やしというか養分な訳。
最後に映画のタイトル通り、喜久雄は人間国宝になるんだけど、それまで周りの人を犠牲にして来た。婚外子でカメラマンとして喜久雄に接近する綾乃が出て来るんだけど、恨み言と同時に喜久雄の舞台での美しさのあまり拍手している自分がいたことを告げる。
そう、今作のテーマは「美というものの危うさ、美とは危険なもの」だと思う。
少し気になった点があって、少し賞を狙う為にオリエンタリズムを意識して利用してはいやしないかとは感じました。