映画「エミリア・ペレス」

 なんだろう、映画を見てここまで困惑したのは久しぶりかな。

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 調べてもらえればわかりますが、今作は数々の受賞を総なめにした大変評価の高い作品だというので気にはなっていましたが、同時に酷評もされているので見るのを躊躇していました。

 

 で、今回やっと見たのですが、申し訳ない、この映画のいったいどこが各賞を総なめにするほどの傑作なのか、私にはまったく理解できないという点で困惑しています。

 

 舞台はメキシコ。そこで望まないかたちで悪党の弁護をして腐っている弁護士リタ(ゾーイ・サルダナ)が、ある日突然拉致られる(!)。

 

 そしてメキシコを支配しているといってもいい麻薬王マニタス・デル・モンテ(カルロ・ソフィア・ガスコン)に、「自分が女になるのを手伝って欲しい。理由は私は前から自分のセクシャリティに疑問を持っていて、麻薬王にふさわしい男らしさを発揮するのに疲れた。」と依頼を受ける。

 

 本当に唐突な展開なので、リタ同様こちらも(?)とならざるを得ない。でも、リタは金に目がくらみ(?悪党の手助けをして腐っていたのに!)マニタスの依頼を受ける。無事に性転換手術は成功し、マニタスはこの映画のタイトルにもなっている「エミリア・ペレス」へと生まれ変わる。

 

 ここまでが導入部で、エミリア・ペレスのプロフィール紹介。で、ここからもう本当にどうかと思う展開になる。まず、マニタスだったエミリアは妻と二人の子供がいるんだけど、自分は殺害されたと偽装して家族といったん別れるんだけど、再会したリタと話していたら、二人の子供がエミリア(ややこしいのでエミリアに統一)に会いたがっているというので妻ジェシカ(セレーナ・ゴメス)と二人の子供をなんと自分の元に迎え入れ、家族同然(当たり前だ!)に暮らす。

 

 麻薬王時代のお金があるのでエミリアとその家族(?)はまったく生活に困らない。で、そこから話はさらに変な方向に行く。リタとカフェか酒場で話していると、行方不明になった息子の捜索を頼む母親と出会い、それを気の毒に思ってかエミリアはなんと行方不明者捜索の慈善団体を立ち上げる(!)あのさ、その行方不明者の中にはさ、自分が指示してぶち殺した、罪無き人々がいるんだよね?過去の罪を清算するという意味があるのはわかるんだけどさ、身勝手にもほどがあるんだけどコイツ!

 

 そして、この映画でいちばん「!」なシーンがあって、行方不明になった夫の遺体を確認しに、エピファニア・フローレンス(アドリアーナ・パス)という名の女性が来て、彼女バッグにナイフを仕込んでエミリアの元を訪れるんだけど、夫の死亡を確認したら、「よかった!実は夫にDVを受けて苦しんでいたの!死んでてよかったわ!」等と言い放つ。たしかにそういうケースもあるのだけれど、こういう描写ってエミリア麻薬王時代に散々人を殺したであろう事実を良きことにしていないか?そしてなんとエミリアは彼女と一夜を共にして付き合い始める!

 

 さらにひどいことに、元奥さんのジェシカをケアせずにほったらかしにしているのに、彼女があまりよくない男性とつきあっているのをとがめるのはなんなんだろう。ここまで来て私は頭がクラクラして来ました。

 

 最後は元妻と揉めた挙句、エミリアはなんとジェシカとその交際相手に拉致され、左指を切り落とされる。朦朧とした意識の中でジェシカに自分がマニタスであることを吐露、改心(?)したジェシカが交際相手ともみ合いになり、その巻き添えを喰ったエミリアともども爆死する…

 

 あのさ、大変申し訳なんだけど、こんな駄作はちょっと無いと思う。「ウォー・オブ・ザ・ワールド」とかは確かにヒドイ映画だったけど、この映画はかなり名のある映画賞を総なめにしているんだよ?

 

 私のリテラシーが低いからって訳じゃなくて、海外映画のレビューサイト「ロッテントマト」でもオーディエンス評価はなんと17%だから間違っていないと思う。

www.rottentomatoes.com

 で、思い出したんだけど、つまらなくは無かったけどそれほど面白くもないと自分では思っていた「アノーラ」が、アカデミー作品賞を受賞したのはこの「エミリア・ペレス」に作品賞を取らせたく無かったというのを聞いたことがあります。なんか主演だったはずのエミリア役のガスコンが、過去にセクシャルマイノリティに対する差別発言をしていたのが良くなかったらしい。「アノーラ」はどっちかというと「棚ぼた」受賞だったっぽいですね。

entanglement26.hateblo.jp

 セクシャルマイノリティを描いた映画で良作っていっぱいあるので、この映画の問題はジェンダーでは無いよ。作品が駄目なんですよ!監督のジャック・オーディアールセクシャルマイノリティ当事者でないことも本作の駄目さを助長している。

 

 最後に、「新世紀エヴァンゲリオン」で有名な、とあるやりとりをパロって終わろうと思います。

 

 「ごめんなさい、こういう時どんな顔をすればいいのかわからないの」

 

 「怒ればいいと思うよ(レンタル料金550円を支払い、2時間も駄作と付き合ってしまった自分自身にね!)」