最近お亡くなりになった、ロバート・レッドフォード主演のスパイ映画を再鑑賞した感想です。彼の主演作品ならもっといろいろあるだろうし、そっちを見ればいいのかも知れませんが、改めて見直すと非常に今日的で予見的な内容に見えました。
あらすじはかなり単純です。表向きはアメリカの文学史協会という、CIAの末端組織に所属している主人公、ジョゼフ・ターナー(ロバート・レッドフォード)コードネーム”コンドル”はある日自分だけ昼食を買いに外出し、戻って来てみたら自分以外の職員が全員殺されていた。
CIA職員といっても末端の人間であるコンドルはすぐにCIAに助けを求めるのだが、そこでなんとその当のCIAから命を狙われ、追われる身になる。
通りすがりの写真家キャサリン(フェイ・ダナウェイ)をほとんど強盗みたいに脅して匿ってもらい、自分が追われている原因を突き止めようとするのがあらまし。
今見て見ると、キャサリンは非常に都合のいいキャラクター造形で、コンドルを演じるのがロバート・レッドフォードだからかろうじて成立しているようなシチュエーションだったりします。まあ要するに「イケメン無罪」ですね。
アクション的に盛り上がるのは、中盤から終盤の間の「配達員」との格闘シーン。室内での格闘なのですが、ジャッキー・チェンを髣髴とさせる、道具を使ったアクションシーンでした。
本好きの末端構成員でしか無かったコンドルだけど、洞察力と行動力に富み、なんというか現場でも通用しそうな諜報員として覚醒してしまい、彼はついに自分が追われる真相を突き止める。
黒幕が語るのは、中東の石油利権を巡る、CIA内部の暗闘であったのがわかるんだけど、その割を食ってコンドル達は襲われた。
真相の判明と一緒にプロの殺し屋ジョベア(マックス・フォン・シドー)が表れ、黒幕はそいつの手にかかり殺され、コンドルも消されてしまうのかと思いきや、ジョベアはなんとコンドルがそこにいた痕跡を消し、黒幕を自殺に見せかける。
ジョベアは実は元CIAにいたのだけれど、組織に所属し旗色を鮮明にするという振る舞いに嫌気がさして殺し屋になったらしい。「すごく気楽だ」とジョベア。自分の「仕事」をすっかり楽しんでいるその様は清々しくもあったりする。コンドルを殺さなかったのは、依頼に含まれていなかったから。プロは無駄なことはしない。
CIAの幹部ヒギンズ(クリフ・ロバートソン)に接触し、「新聞社に真相を暴露した」と息巻くコンドルに対して「新聞社がそれを公表するかな?」と半ば嘲笑気味、半ば気の毒そうにコンドルを見つめる。まるで「お前はまだこの世界の闇を知らない青二才に過ぎない」と言わんばかりに。そして新聞社が真相を暴露したのかは明示されずに映画は終わる。
図らずも今日的であり予見的になってしまったのは、石油利権への言及と、今は亡きツインタワーがかなりシンボリックに写されている点。そう、もちろんアメリカ同時多発テロによって世界の様相が一変してしまったんですからね。
さらにいうと、映画公開の1975年時点ではまだインターネットなんて全然一般化されておらず、DARPA(国防高等研究計画局)という、インターネットの原型となる機関が出来て間もなくの頃。
今の複雑過ぎる世界では、コンドルに起きた災難はあまりにもシンプルにすら見えてしまいましたね。AIも無いしね…
